小惑星 2014 JO25 の観測から

図1

図1

図2

図2

小惑星は星座を作る星に比べて動きが速いので、画像の中では動きが線となって現れます。ぐんま天文台での画像(図1)で中央やや左上の「線」が暗くなっているところは、小惑星がその位置にいた時間帯に曇っていたことを示します。逆に、線が明るいところ(時間帯)は、写るくらいには晴れていたわけですが、線はまっすぐというよりは立ち上がる煙のようによれてみえます。しかも、等間隔でよれているようにも。これは、はたして小惑星の明るさが本当にかわっていたのでしょうか?

小惑星の明るさは変わるものと想定するのが自然です。図2のレーダー画像でみるようにこの小惑星はピーナッツ形ですが、コマのように自転しているはずで、たぶん、真横から二つの頭が見えるときは明るく、片方の「頭」がもう一方の「頭」を隠すと暗くなるでしょう。ぐんま天文台での「線」がよれている、あるいは明暗の間隔は、小惑星の自転周期に対応するかもしれない、という「まさか?!?」が頭をよぎります。

まずは基本的な計算を。小惑星は約200万kmにあったことになっていますから、この線の幅10秒角(1秒角(1”と表す)は分度器1°の1/3600)は10kmに対応し、小惑星の大きさ650mよりははるかに大きいので、小惑星のまわっているところをじかにとらえたわけではありません(レーダーはすごいのですね)。ですから、小惑星の回転が原因であったとしても、形状ではなくて回転による明るさの違いが画像になったものと思われます。

それでは、ということで明るさの変化の「周期」を測ってみましょう。画像を回転させてまず「線」が水平になるようにし (図3)、(分光データを扱う要領で)「線」の明るさをグラフにしてみます (図4は雲の影響のない右側明るい部分の左半分(図4左)と右半分(図4右))。横軸は線上の位置(ここではピクセルであらわされます)ですが、時間にも対応します。縦軸は明るさです。当然、見た目どおりで、明るさは、(とりわけ右のパネルでは)明るいピークが二つと暗い谷が二つの繰り返しにも見え、これは2つの塊の回転と矛盾しません。最も明るいピークどうし、最も暗い谷どうしの間隔も20-30ピクセルくらいで目分量では似てみえます。とはいえ、自転であればその明るさの変化はほぼほぼ厳密に同じパターンで繰り返すはずで、天気のせいか もしれないが、あまり楽観的ではない予感はしてきます。でもその中で、これが周期かも思い切ってみるのも観測屋稼業の一つといいきかせ。。。

図3

図3

図4左
図4右

図4

図5

図5   色は線上の範囲に対応。緑が図3で雲の左部分、青が図4左、赤は図4右部分。

次に谷と谷の間隔(ひょっとしたら周期?)をみてみます。25ピクセルくらい、20ピクセルくらい、いろんな間隔のものがあるようです。これは単なる誤差なのか。しかし二つ塊の場合はそろうとも限らないので。。。そこでフーリエ解析というのをやって、いろいろな間隔(周期?)について、そのもっともらしさを計算します(図5)。横が間隔、縦軸が周期?の確からしさを示します。一応、23ピクセル、26ピクセルに確からしさのピークがみられました。天気のこともありましたし、このデータで断言する勇気はまったくありませんけど。26ピクセル(16.4”に相当)が周期なら、当時は小惑星は空の上を毎秒4”程度で動いていましたから、自転周期はたった4秒です。直径650mの表面は秒速500mで回っていることになります。目が回りそうです(実は地 表も秒速500mで自転しています)。

プログラムも心配なわけですけど、人工データで周期を入れてみればほぼ正しい答えがでてくることだし、このデータでできるのはここまで、というところをまとめてあとは大岡様のお裁き、としたところで、自転周期は5時間らしいという情報が入ってきました。やっぱり。これが本当ならば、4秒というのはどうやら自転周期とはいえないようです。日常的な感覚で速すぎるんだから最初から違ったんだ、というようなことはあまり気にする必要はないのです。「渋川スカイランドパークの観覧車の6倍(?)も大きいものが、観覧車なら4分で回るところを4秒なんてありえないっ!」なんて、人の世ならばともかく、天体の世界では考える必要はないのです(想像するとおっかないくらいダイナミックな情景で、榛名山のてっぺんが4秒で回転する バージョンで想像してもいいわけですが、、、それでも、所詮、宇宙の片隅で岩がまわっているだけなわけです)。周期の4秒を無理やり生き延びさせるとすれば、別な自転を考えるくらいでしょうか。回転にはピーナッツの頭どうしが回りあう回転もありますが、二つの頭を結んだ線を軸とする回転もありえるので、その二つ目の周期が見えている可能性もありえます。ですが、頭どうしが5時間で回転する系が、二つめの周期がそんなに高速に回転しているとは思いにくいかもしれない。せいぜい4秒くらいでほぼ同じ軸周りに高速回転していた二つの頭がたまたまその軸に平行にくっついた、くらいのシナリオしか描けないでしょうか。かなり無理筋っぽいので、やっぱり画像の線がよれて見えるのは風が原因、明るさの変化はうすい雲が 原因、というのが当面の結論のようです。そんなに規則正しく雲の厚みがかわるものかとも思いましたが、太陽の投影で薄雲が通過する時を観察していれば、あっても不思議ではない気がしてきます。なんともつまらない結末だった。

とはいえ、いくつか、これから同様の観測を誰かがいつかやるとすれば、やっておかないといけないことがみえたのではないでしょうか?望遠鏡のトラッキングを止めて、意図的に星を流して写したときにどう写るか。そもそも天気がいいときにデータを取り直す(500年後に晴れていたらがんばりましょう)。2、3枚のフィルターで明るさの変化を調べる。地表が大陸と海で色がちがうように、火星の表面も色が一様ではないように、小惑星も(海はないでしょうが、、、)同様に色の変化となってあらわれるかもしれない。長い周期が予想できる場合には、短時間の画像をたくさんとって周囲の星の明るさを基準にできればもっと精度が上がりそう(曇りかげんは各画像上の星でほぼほぼ共通でしょうから)。もっと大切なことに、土日に、同じ ような小惑星が次にいつ通過するか調べておく(where and how?)。11等ならゆうゆう写りましたから、15等でも動きがゆっくりなものなら写るだろうし、ゆっくりなら一画面に長い時間の情報が記録できる。Aha、観測体験時間が使える!通過が金曜だったら天文台と観測を交渉しよう。5時間周期なら、少なくとも2周期分で明け方まで必要だし!一方、私にとっては、自転周期の測定プログラムがおおよそできてしまったことも財産の一つとなりました。これに使った時間を回収できるかはこれから次第ですが。

(観測普及研究員 長谷川)