天文学会・2008年春期年会での発表内容

3月24日から27日まで東京開かれた日本天文学会・2008年春季年会において、4件の発表を行いました。

望遠鏡で本物の星や宇宙を見るだけでなく、研究者との交流や最前線の研究現場に接することができるのもぐんま天文台の特長です。質問などがありましたら、展示室やドームにいるスタッフに声をおかけください。

講演の概要

講演予稿集に掲載した内容は次のとおりです。発表で使用したポスター(pdf)にもリンクしました。

ぐんま天文台における WZ Sge型矮新星 V455 And の2007年アウトバースト中の分光観測
衣笠 健三、本田 敏志、橋本 修(ぐんま天文台)、野上 大作(京都大)
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V455 And は、Hamburg Quasar Survey によって発見された激変星である。Araujo-Betancor et al.(2005)により、静穏時の詳細な観測がなされ、81分の軌道周期のほかに、83.38分、5.6分、1.12分の周期変動成分があり、さらに、3.5時間程度の視線速度変化がみつけられている。これまでにアウトバーストが確認されておらず、WZ Sge 型の矮新星と考えられている天体である。しかし、2007年9月4日に前原氏によりこの系で初めてのアウトバーストが、増光開始直後と思われる時期に発見された。

これらの観測報告をうけて、ぐんま天文台では150cm望遠鏡にとりつけた低分散分光撮像装置にて、9月7日から11月24日までの2ヶ月あまりの間、計6夜分光モニター観測として、露出60秒からの連続分光観測(波長分解能R〜400)を行った。これらの観測日を光度曲線と照らし合わすと、極大直後、減光期、急速な減光後の減光テール期をとらえたことになる。観測された極大直後のスペクトルには、Hα、Hβ、 Hγなどのバルマー輝線のほかに、HeI輝線と HeII、CIII/NIII、 CIV/NIV の高励起輝線が観測されている。これらの線スペクトル成分は、他のWZ Sge型矮新星である WZ Sge, GW Lib のアウトバースト期のものと同様であり、同型の矮新星といえる。減衰期のスペクトルでは、同様の輝線がみられるものの、輝線成分が弱くなっている。さらに、減光テールでのスペクトルでは、連続成分が弱くなり、増光時よりもさらにバルマー輝線が支配的なスペクトルとなっている。

本講演では、これらの観測スペクトルを紹介して、さらに短いタイムスケールでの変化や静穏時との比較などについても報告する。

RV Tau型変光星U Monの分光観測
田口 光 、橋本 修、本田 敏志、高橋 英則(ぐんま天文台)、吉岡 一男 (放送大学)
(口頭発表のためポスターはありません。)

ぐんま天文台150cm望遠鏡+高分散分光器(GAOES)にて RV Tau型変光星 U Monの観測を行い、その化学組成を求めた。U Monの詳細な組成を観測したこれまでの複数の研究結果では、相互に食い違いを示す元素が少なくない。そこで、今回新たに得た観測データを用いて、差異が顕著なMg, V, Crの元素量について、過去の研究とは独立な測定を行った。

組成の解析には、太陽を標準星とする相対成長曲線解析法に基づく解析プログラムを用いた。その結果、Vは、若干の欠乏が見られる点で過去の観測と一致しているが、Mgについては、過去のどの観測結果とも異なる値を示した。なお、有効温度、表面重力加速度、ミクロ乱流速度などの大気パラメータ、及び総金属量の指標であるFeの量は過去の観測結果とよく一致している。

U Monを含めたRV Tau型変光星では、金属量の欠乏がみられる傾向が一般的であり、その原因として、ダスト・ガス凝縮説と過電離説との二つが提案されている。測定を行った3つの元素に対しては、過電離の大きな影響はないが、Vのみ若干のダスト・ガス凝縮の影響が見られると考えられている。ダスト・ガス凝縮の効果が組成に反映されていると、変光による大気状態の違いによって化学組成も変化する可能性がある。現在、変光フェイズの違いによる組成変化につていて追跡観測を行っている。

ぐんま天文台150cm望遠鏡高分散分光器の検出器改良と性能評価
高橋 英則、橋本 修、本田 敏志、田口 光(ぐんま天文台)、中屋 秀彦、鎌田有紀子(国立天文台)
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群馬県立ぐんま天文台150cm反射望遠鏡には、エシェル回折格子を用いた高分散分光器(GAOES)が搭載されている。これは波長360〜1000nmを最大で波長分解能 〜110,000で分光が可能な装置で、多くの観測に使用されている。現在この分光器に用いられているe2v 15μm 2K×4KのCCD検出器は現在入手可能な検出器としては世界で最高の性能を有している。また周辺読み出し・制御回路には、すばる望遠鏡にも使用されるMfront2およびMessiaVが導入されており、より高い総合性能を実現している。

これまで検出器には実用上十分な性能を有するエンジニアリンググレード(EG)が使用されていたが、より高性能・高精度な観測に対応するため、今年度の計画としてこのCCD検出器をサイエンスグレード(SG)ヘの交換を行った。作業は2007年10月下旬から11月初旬にかけて、国立天文台・先端技術センター内クリーンルームで行われた。その後の動作チェックにおいて、SGチップのインストールが問題なく行われたことを確認した。さらにSGチップの性能評価測定が行われたので、その結果について報告する。

まず外部光照射による転送効率、Conversion factor、Sensitivity、読み出しノイズなどの測定を行った。転送時の電荷漏れはシリアル方向、パラレル方向ともに 0.07%以下、Conversion factorは 1.92―1.95e^-1/ADU(CDS_T=2μsec)、Sensitivityは 5.60--5.67μV/e^-1程度となっており、どれもEGよりもよい値となっている。読み出しノイズについては、3.1e^-1と非常によい数値を達成していることがわかった。リニアリティは、ADC入力範囲(125,000e^-1)で線形性が保たれており、広いダイナミックレンジでの一様なデータ取得が期待できる。以上の結果から検出器全体のグレードとして、ほぼすべての項目においてGrade 0の評価となっており、この検出器の素性の良さを確認することができた。また^55FeのX線源を用いてのエネルギー分解能やconversion factorの測定も行われ、外部光照射による測定の結果との比較で、CCD全面での転送効率を見積もることができる。他にダークノイズの温度依存性などの測定も行っており、これら詳細を測定環境の状況などと併せて報告する。

ぐんま天文台150cm望遠鏡高分散分光器の制御系改良と試験観測
本田敏志、橋本修、高橋英則、田口光、衣笠健三(ぐんま天文台)
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ぐんま天文台の150cm望遠鏡ナスミス焦点に設置された、可視高分散分光器GAOES (Gunma Astronomical Observatory Echelle Spectrograph) の改良を行い、試験観測等から性能評価を行った。改良の結果、装置の安定性が向上し、ほぼ設計通りの性能を示すスペクトルが得られることが確認された。

GAOESは波長3600Åから10000Åの波長域で高い波長分解能を実現するエシェル分光器である。 2003年度より観測に用いられてきたが、初期のシステムは不安定な部分も少なくなかった。そこで、2005年度より検出器の改修を始め、読み出し部にMfront2、 MessiaVを用いること等で、大幅にノイズを減らすことに成功した。今年度にはCCDをサイエンスグレードへ載せ替えも行っている。検出器部の改良については高橋他(V:地上観測機器)の講演を参照されたい。一方、分光器本体については、光学系が不安定なため、長時間露光を行うと波長分解能が十分に得られない場合があった。この問題を解消するために、クロスディスパーザ制御部の駆動精度の調査を行い、制御系の改修を行った。その結果、クロスディスパーザの再現性、安定性を0.4秒角以内の変動に抑えることに成功した。この変動はCCD上の1ピクセル(15μm)より十分に小さい。

これらの改修後、分光器の安定性や効率測定のために、Th-Arの比較光源や天体のスペクトルを複数の波長分解能で取得した。その結果、ほぼ設計通りの高い波長分解能が得られていることを確認した。一方、安定性に関しては、一晩の間に1ピクセルより大きな変動が見られることがあった。これは、分光器が収められたチャンバー内の温度変化等によるものと推測され、今後はチャンバー内の温度制御を行う予定である。

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