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「群馬県一斉日食観測ネットワーク」結果速報

結果速報

日食当日は本県のほぼ全域が晴天となり、6月5日までに118校から観測・観察結果がぐんま天文台に寄せられました。これら118校で行った観察会への参加者数は、児童生徒、教職員を合わせて28,720名でした。当日の様子について多くの学校から報告が寄せられています。一部を紹介します。

結果は添付の図の通りです。図には北限界線の予測を2通り示してあり、青線がNASAによる予測、赤線が相馬氏 (国立天文台) と早水氏 (せんだい宇宙館) による予測(日本の月周回衛星「かぐや」が測定した最新の地形データを反映させたもの)です。ピンホール投影法、日食グラスによる直視法、望遠鏡による投影法の図を比較すると、この順に金環になったかならなかったかの区別が明瞭になっている様子がわかります。どの方法でも、赤線よりも北まで金環になったことが報告されていますが、この結果からNASAの予測や相馬氏と早水氏の予測の正誤をただちに判定することはできません。

集約したデータは、6月2日(土)に登録メールアドレスを通じて参加校に配布しました。全てのデータを手にする各学校、児童生徒のみなさんが、データを存分に活用して、どのように北限界予測、各観測・観察方法の評価等をしていくか楽しみにしています。また、今回のようにたくさんの学校が協力して観測する事の有益性に気付いてもらいたいと思います。

ピンホール投影法の結果

ピンホール投影法

日食グラスによる直視法の結果

日食グラスによる直視法

望遠鏡による投影法の結果

望遠鏡による投影法

日食北限界線
  青色:NASA予測
  赤色:相馬氏、早水氏による予測

◎ 明らかに金環になった
○ おそらく金環になった
△ 金環になったかどうか判断できなかった
× 明らかに金環にはならなかった
● 天候不良で観測できなかった

参考

5月21日の金環日食と限界線

5月21日朝、日本全国で日食が起こりました。特に、本州から四国、九州にかけての広い範囲では、月が太陽の中に入り込む「金環日食」となり、本県を含め、天候に恵まれた地域では多くの人々が目にすることができました。一方、日本海側や北海道では金環日食にはならないものの深い部分日食になりました。このように、日食の時には完全な日食(皆既または金環)になる地域と部分日食になる地域とがあり、その境を「限界線」と呼んでいます。限界線は南北にあり、今回は「北限界線」が本県をはじめ、福島県、長野県、兵庫県などを通過していました。

日食予報の精度

日食の予報は、太陽と月の天球上での経路とそれぞれの大きさなどを基に算出されています。ところが太陽はわずかにつぶれた球でその大きさにも測定精度に由来する不確定さがあり、月も質量中心(重心)と形の中心(幾何学中心)が一致しないため重心位置の予報から縁の位置を出すには不確定さがあり、さらに地形の凹凸があるため地球から見てその縁が完全な円にはなりません。このため、金環日食を予報する場合には、太陽と月の見かけの平均径や重心と幾何学中心のずれの影響を考慮して食の深さ(欠け具合)を算出するのが一般的です。このときの平均径のとり方や月の幾何学中心位置のとり方などによって予報位置が数百mの単位でずれ、これが予報精度の限界となります。そこで、この精度を上げるため、日本の「かぐや」探査機によって10mの誤差で測定された月の地形データを利用して、相馬充氏(国立天文台)と早水勉氏(せんだい宇宙館)が月の縁の形状を考慮した金環日食の予報を出しました[1]。この予報と米国航空宇宙局(NASA)が算出した予報とは2km以上ずれています。どちらがより高精度なのでしょうか? 本県のように北限界線が通る地域では、予報線をはさんで金環日食になるかならないかを観測すれば、予報の精度を検証することができます。

日食の観測・観察方法

ところで、専門の観測家が日食を観測する場合には望遠鏡等を用いて精密な数値データを取得しますが、一般的な観測・観察方法には複数の方法があります[2]。今回の金環日食のように一般の関心が高い天文現象 の場合、これら複数の方法を提示して、各人が最も採用しやすい方法での観測・観察を推奨することが一般的です。これまでの日食では、安全な観測・観察方法として各種投影法を推奨してきた例が多く見られました。しかし、それぞれの観測・観察法での観測・観察精度について言及する例は見出されません[3]。「ピンホール投影法で金環が見える」と推奨しておきながら、北限界線近くでは「望遠鏡による投影法」でなければ観測・観察できない可能性があるにもかかわらず、です。

日食観測ネットワーク立ち上げと子どもたちの安全

そこで、県内の児童生徒が同時に主体的に観測・観察を行い、それぞれの観測・観察結果を集約して、協力して探究することの有益さ、面白さ、楽しさに気づいてもらうことを目的として「群馬県一斉 日食観測ネットワーク」事業を主催し、参加校を募集しました。このために、学校単位での観測・観察の後、それぞれの結果をぐんま天文台で集約し、まとまった形で参加校すべてにデータを配ることを当初から予定し、また、日本天文学会、天文教育普及研究会等の専門的な会合での発表も予定しています[4]

さらに、今回の日食は、通勤通学時間帯に最大の瞬間を迎えるため、観測・観察に気を取られての不慮の事故が発生する危険が予想されました。特に、子どもたちは好奇心旺盛であり、通学中の交通事故が懸念されました。群馬県立ぐんま天文台では学校単位で子どもたちが安全に日食観測・観察ができる環境を整えることも目的としました。

参加校には、最も簡便で安全な観察用具としてぐんま天文台オリジナルの「ピンホール式日食投影しおり」を児童生徒ひとりひとりに配布しました。また、教職員向けには、理科部会等での日食観測研修会に職員を派遣して学校での安全指導に資するようにしたり、登録メールアドレスを通じて安全な観察方法やお勧めの方法をお知らせしたり、問い合わせに対応したりするなど、細やかな情報提供を実施しました。このような活動は参加者から好評をいただき、今後の天文現象情報の提供依頼や学習活動への協力などの要望をいただいています。

[1] かぐやによる月縁を考慮した2012年金環日食予報

[2] ピンホール投影法、鏡反射投影法、日食グラスによる直視法、望遠鏡による投影法

[3] ぐんま天文台調べ。

[4] 日本公開天文台協会(JAPOS)群馬大会 (6月)
  天文教育研究会(天文教育普及研究会年会) (8月)
  日本天文学会秋季年会 (9月)

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