天文学会・2008年春期年会での発表内容

9月に開かれた日本天文学会・2008年秋季年会において、4件の発表を行いました。

望遠鏡で本物の星や宇宙を見るだけでなく、研究者との交流や最前線の研究現場に接することができるのもぐんま天文台の特長です。質問などがありましたら、展示室やドームにいるスタッフに声をおかけください。

講演の概要

講演予稿集に掲載した内容は次のとおりです。発表で使用したポスター(pdf)にもリンクしました。

ぐんま天文台の国際共同活動
古在由秀、橋本修、田口光、倉田巧(ぐんま天文台)、Hakim L. Malasan (バンドン工科大学)
(pdfファイル) ポスターを見る添付資料

ぐんま天文台では、活動の基本方針のひとつとして国際協力を掲げ、その設立以来、様々な共同観測や研究者間での交流を行ってきた。特にアジア地域との連携に力を入れているのが特徴で、この地域からは多くの研究者がぐんま天文台を訪れ、150cm望遠鏡やその他の施設を用いた共同研究を行っている。

それに加え、主に若い人材を招聘し、ぐんま天文台の施設を利用した観測の実習を行い、それをもとにした天文学の研究や教育の研修も積極的に行っている。アジアの国々の中には日本の政府開発援助(ODA) などによって口径40cm前後の望遠鏡が装備されていることが少なくない。にも関わらず、それを利用できる人材の育成が不十分であり、折角の装置が有効に活用されていない場合が目立つのが実情である。このような状況を改善するのを目的として、自在育成の協力に重点を置いている訳である。場合によっては、ぐんま天文台の職員が現地に赴き、そこで装置の調整などに協力することも行ってきた。

今日の東南アジア地域における天文学の発展は目覚しいが、これまでの我々の活動の効果も少なからず貢献したものと評価されるようになっている。近年では東南アジア天文学ネットワーク(SEAAN)も設立されるようになった。その中心となっているインドネシアのバンドン工科大学とは 2002年に協力提携協定を締結し、以来様々な共同事業を展開している。ぐんま天文台の国際協力活動についてこれまでの経緯や具体例の詳細を紹介する。

県立ぐんま天文台と群馬大学・放送大学との連携の現状
吉岡一男(放送大)、岡崎 彰(群馬大)、田口 光、高橋英則、本田敏志、橋本 修(ぐんま天文台)、籾山隆志(元放送大)

県立ぐんま天文台と群馬大学・放送大学との連携の現状について報告する。1999年に県立ぐんま天文台がオープンして以来、同じ群馬県内にあり地理的に近いメリットを利用して、群馬大学および放送大学(群馬学習センター)は、相互交流を進めてきた。それは、大きくは次の3つのカテゴリーに分けられる。

1つは、研究面での交流である。県立ぐんま天文台の観測装置、とくに150cm反射鏡と65cm反射鏡を用いた観測が行われている。放送大学では2人がRV Tau型変光星を研究対象としてそれぞれ65cm反射鏡の小型低分散分光器(GCS)を用いて得られた低分散度のスペクトルに基づいた分類および150cm反射鏡のエッシェル分光器(GAOES)を用いての化学組成解析を行い、修士号を取得している。また、現在、修士学生が系外惑星を持つ恒星の化学組成分析をGAOESを用いて行っている。また、群馬大学でも2人が食連星を研究対象として65cm反射鏡の光電測光器を用いて光度曲線を解析し、修士論文としている。さらに、昨年から岡崎・吉岡とぐんま天文台スタッフに群馬大と放送大の修士学生・学部学生を加えて、Gray著の分光解析の教科書を輪講を始めた。

2つ目は、教育面での交流である。たとえば、群馬大学では教育学部理科専攻1・2年生の「総合演習」の一環として、ぐんま天文台を訪れて、観測施設の原理等の説明を受けている(隔年)。また、放送大学では2日間の集中型面接授業「観測天文学入門」の初日の夜にぐんま天文台を訪れて、スタッフから天文台の説明を受けたり、観望したりして参加学生の好評を得ている。

3つ目は放送大学特有の利用だが、多様な光学望遠鏡が設置されているぐんま天文台の特徴を利用して、何度かロケに行き、放送大学の天文関係の放送授業の映像を得ている。

ぐんま天文台150cm望遠鏡焦点面観測装置
高橋 英則、橋本 修、衣笠 健三、本田 敏志、田口 光 (ぐんま天文台)
(pdfファイル) ポスターを見る

ぐんま天文台150cm反射望遠鏡(RC光学系、各焦点合成:F12.2、観測波長域:可視光〜K-band)には、Scientific Assemblyとして4つの焦点面観測装置が設置されている。

ナスミス焦点には、分散素子にエシェル回折格子を用いた高分散分光器GAOESが設置されている。コリメータとカメラ系は全て透過光学系で構成されており、これらは全て真空チャンバーに収められている。観測波長域は 360--1000 nm で、 2048×4096 画素のe2V検出器によって、100nm程度の帯域を一度の露出で網羅することができる。スリットは 0.6--4.0秒角に相当する幅のものが用意され、1.0秒幅のスリットを用いた時には、およそ70,000の分解能が達成される。読み出し回路には国立天文台と共同で開発したMFront2 + Messia-V が導入されており、低ノイズ(<3e)、且つ非常に早い読み出し速度(〜30秒/フレーム)により、高効率な観測が実現される。

カセグレン焦点に搭載されているのは、波長1µmから 2.5µmの近赤外線をカバーするGIRCSである。HAWAII 1024×1024画素のHgCdTeアレイ検出器が、 0.4''/pixel のスケールで 6.8'×6.8'の視野をカバーする。カメラモードではJ, H, K, Ks, K'の広帯域フィルター、[FeII], H2} 1-0 S(1), Brγ, K連続光, CH4などの狭帯域フィルターが内挿されており、様々な赤外線イメージを得ることができる。一方、グリズムを用いた分光モードも用意されており、J, H, Kの各バンドにおいて分解能 1,000程度の分光観測も可能となっている。

2つのベントカセグレン(BS)焦点には可視域の観測装置が設置されている。BS第1焦点には、1024×1024画素の液体窒素冷却型CCD検出器が設置されており、 10'×10'の広い視野に対して非常に高い感度での撮像を行うことが可能となっている。また、BS第2焦点には、低分散の分光観測機能を備えた撮像装置GLOWSが設置されており、望遠鏡の優れた指向性能と相まって超新星などの突発天体の同定観測にも極めて優れた能力を発揮する。

High Resolution Spectroscopy of Double-lined Detached Eclipsing BinariesUseing the Gunma Astronomical Observatory Echelle Spectrograph
Hakim L. Malasan (バンドン工科大学)、橋本修 (ぐんま天文台)、A.T. Purijatmiko (バンドン工科大学)、 田口光 (ぐんま天文台)
(pdfファイル) ポスターを見る

On the basis of collaboration between Gunma Astronomical Observatory in Japan and Institut Teknologi Bandung in Indonesia, high-resolution spectroscopy of stellar objects using the newly designed Gunma Astronomical Observatory Echelle Spectrometer (GAOES) installed at a 1.5 meter telescope has been actively carried out since 2004. GAOES has several advantageousnesses against conventional echelle spectrographs, i.e. its compactness, higher throughput and stability that enable one to conduc t high-resolution spectroscopy (R 〜 70000) on relatively faint objects.

Double-lined eclipsing binaries are, so far, the only objects for which fundamental and simultaneous determinations of absolute physical parameters can be deduced. In the case of detached eclipsing binaries of this type, mutual interaction can be neglected and analyses of observables can yield in simultaneous absolute dimensions for the two single stars. Further, evolutionary models should be able to predict the same age for both components for a certain chemical composition.

We have made high-resolution optical spectroscopic observations using GAOES of several double-lined detached eclipsing binaries, i.e. CD Tau, EE Peg, Beta Aur and IQ Per in 2006. Among them, CD Tau has been monitored since 2004 up to now. With the introduction of new camera system of GAOES, significant improvement on the obtained S/N data lead us to better spectra for analysis on line profiles and radial velocities.

トップページへ 過去の天文ニュースへ