ぐんま天文台、特異な超新星SN2002apを確認:極超新星か?

衣笠健三、河北秀世(ぐんま天文台)

超新星SN2002apは、茅ヶ崎市にお住いの天文愛好家、広瀬洋治さんによって発見されました。超新星が出現したのは、うお座の系外銀河M74で、開いた渦巻をほぼ真正面から見ている美しい銀河です。M74は私たちからおよそ3700万光年ほどの距離にあり、たいへん近くにある銀河のひとつです。図1は、2月1日に観察用望遠鏡で得られた超新星の画像です。

超新星の位置は、M74の中心から西に4.3分角、南に1.8分角ほど離れたところにあたります。銀河円盤の腕の最外部で、見た目には銀河本体からかなり外にあるように見えるでしょう。銀河に重なる前景の星がたくさんありますから、どの星が超新星か注意して見る必要があります。

この超新星は、1月29日午後7時ごろに14.5等で発見されて以来2日で、すでに1等ほども明るくなっています。1月25日には18等より明るい天体は見られなかったとの報告もあり、爆発後間もない天体なのは確かです。

この超新星のスペクトルを、ぐんま天文台が1月31日午後7時ごろに取得し、その解析を行いました。その結果、世界に先駆けて、この超新星はたいへん特異な「極超新星(hypernova:ハイパーノバ)」にも似たスペクトルをしていることがわかりました。同様の観測が、少し遅れて国内の美星天文台でも得られています。この特殊な天体の正体を明らかにするためには、直ちに世界中の天文学者による集中的な観測が必要です。なぜなら、このような天体は間もなく暗くなって観測できなくなってしまうと予想されるからです。ぐんま天文台の衣笠、河北両研究員は、美星天文台の綾仁台長、川端研究員、九州大学の山岡助手らとともに、この超新星の観測結果を国際天文学連合回報7811号にて公表し、世界中の天文学者にむかって今後の観測の重要性を訴えました。

ぐんま天文台で取得したスペクトルのグラフを図2に示しましたが、はっきりとした吸収線などがみえていません。いくつかのくぼみが幅の広くなった吸収線であり、爆発した物質がたいへんな速度で膨張していることがわかります。また、全体的に青っぽく、高温で若い状態であることも見てとれます。

この特異な爆発天体の正体を明らかにするため、今後の光度やスペクトルの変化などの観測、また電波やX線といった他の波長での観測がたいへん切望されます。

M74+SN2002ap
図1:M74と超新星の画像(観察用望遠鏡で撮影)
spectrum of SN2002ap
図2:超新星SN2002apのスペクトル→拡大図
国際天文学連合回報 7811号
SUPERNOVA 2002ap IN M74
K. Kinugasa and H. Kawakita, Gunma Astronomical Observatory (GAO); K. Ayani and T. Kawabata, Bisei Astronomical Observatory (BAO); and H. Yamaoka, Kyushu University, write: "Low-resolution spectra of SN 2002ap (IAUC 7810) were obtained on Jan. 31.4 UT with the GAO 0.65-m telescope (+ GCS; range 380-750 nm) and on Jan. 31.5 with the BAO 1.01-m telescope (range 470-700 nm). Preliminary reduction reveals a rather blue continuum with a steep decrease over 650-700 nm, without any deep absorption or emission. Very broad (FWZI about 30-50 nm) and shallow depressions exist around 470, 570 (deepest), and 620 nm. The overall features resemble that of the peculiar type-Ib/c supernova (or 'hypernova') 1997ef, but SN 2002ap is much bluer."
極超新星(hypernova:ハイパーノバ)とは
通常の超新星に比べて爆発のエネルギーが10倍から100倍程度大きな超新星爆発。通常の超新星の爆発エネルギーはどの超新星でもほぼ同じであるのに対して、極端に大きな爆発エネルギーをもつものを極超新星と呼んでいる。また、膨張速度が非常に大きく、毎秒約30000km(光速の10分の1)程度にもになる。これらは、大質量星の重力崩壊による爆発と考えられている。
特筆すべきは、SN1998bwという超新星である。この超新星は、γ線バーストGRB980425とほぼ同時刻、同一方向でおこったため、γ線バースト対応天体候補として発見された。この天体から得られたスペクトルは、非常に幅の広い吸収線をもつ超新星のスペクトルを示しており、解析の結果、通常の超新星に比べ30倍ものエネルギーをもつことがわかった。このため、通常の超新星と区別するため、極超新星と名付けられた。これらのことから極超新星はγ線バーストと関連しているとも考えられている。
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