ぐんま天文台の新しい眼 - 暗黒の宇宙を見通す最新鋭赤外線カメラ

立ち上げを進めていた150cm望遠鏡用赤外線カメラが本格的な運用段階に入りました。国内屈指の装置であり、その性能を十分発揮するため試験観測を進めています。 「赤外線」という新しい窓が群馬の地に開いたのです。

1. 赤外線カメラの仕様

この赤外線カメラは、150cm望遠鏡に搭載される主力観測装置です。心臓部の検出器には、すばる望遠鏡の同種観測装置でも使用されている世界最大級の100万画素の検出器(赤外アレイHAWAII,1024×1024)を使用しており、世界的にも最先端です。この装置の内部は、検出器内部で生ずる熱雑音を抑え、星からの赤外量と装置自身の赤外量とを区別するため、常時マイナス200℃程度に冷却されています。

2. 赤外線観測の特長

赤外線は可視光線に比べて波長が長いことから、これを利用した赤外線観測には次のような利点があります。

これらの特徴を活かした観測によって新しい宇宙の姿が見えてきます。

150cm望遠鏡に取り付けられた赤外線カメラ 赤外線カメラ

紫色の装置が赤外線カメラです。

3. ぐんま天文台赤外線カメラで撮影した赤外線天体画像

オリオン大星雲 M42

赤外線カメラで撮影したM42 可視カメラで撮影したM42

左上の画像は、ぐんま天文台赤外線カメラでとらえたオリオン大星雲 (M42) の赤外線3色合成画像です。この画像は、赤外線の3原色ともいうべき、波長1.2ミクロン、 1.6ミクロン、2.2ミクロンの3つのバンド (色) で得られた画像を、波長の短い順に青・緑・赤に対応させ、本来目で見えない赤外線をカラー写真のように疑似合成したものです。同じ領域を可視光でとったものが、右上の白黒画像です。

オリオン大星雲は、現在でも活発に星が生まれている領域で、1600光年の距離にあり、その広がりは25光年におよびます。画像のほぼ中央にある4個の明るい星はトラペジウムと呼ばれ、若い星の群れであり、その周囲に散らばる多くの星の大部分は、分子の雲の中に埋もれた生まれて間もない小質量の星で、温度が低く、赤外線でしか見えません。また、トラペジウムの右上の赤い領域は、オリオン大星雲の中でも最もガスの密度の高い場所で、赤外線でしか見ることができません。ここでは、太陽の30倍にもおよぶ巨大原始星から吹き出す高速のガスが周囲の分子雲のガスと衝突して衝撃波を作り、水素分子を光らせていると考えられています。水素分子などの出す光を観測できるのも、赤外線による観測の大きな特徴の一つです。

スターバースト銀河M82

赤外線カメラで撮影したM82
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オリオン大星雲での星生成は、我々の住んでいる天の川銀河のほんの小さな領域でごく日常的に起きている星生成の一例ですが、宇宙には、もっと激しい星生成を行っている銀河もあります。上の画像は、系外銀河M82の赤外3色合成画像です。この天体は、約1200万光年彼方にある銀河で、中心部のおよそ数百光年の領域で爆発的に星が誕生していることから、スターバースト銀河と呼ばれています。この銀河の星生成が活発に行われている領域の面積は、我々の住んでいる天の川銀河全体のおよそ1万分の1に過ぎません。しかし、そこでは天の川銀河全体で生まれている星の約3倍の星が生まれており、この星生成がいかに凄まじいものであるかを物語っています。

このような爆発的星生成には、大量の分子ガス雲が必要になります。分子ガス雲には、分子ガスだけではなくダスト (塵) も含まれています。この塵は可視光を通さないため、M82を可視光で見ると不規則な形をしているように見えますが、赤外ではその奥に潜む原始の大星団を見通すことができるのです。

土星と木星

土星・赤外線画像 土星・可視光画像

上の画像は、赤外線カメラで撮像した土星の波長2.2ミクロンの単色像 (左) と可視光像 (右) です。この波長では、可視光で見たときとはまったく違った姿に見えます。土星本体は暗く、土星の環が明るく輝いています。これは、土星大気中のメタン分子によって赤外線が吸収され、メタンガスのない環の方が太陽からの赤外線をより多く反射するからです。

このようなメタンによる吸収と、他の物質による赤外線の反射は、木星ではさらに印象深い造形をもたらしています。左下の図が赤外2.2ミクロン単色像、右下の図が可視光像です。木星では、赤道付近に、高層の雲が帯状に連なっていると考えられていて、この雲によって赤外線が反射されています。その他のところでは、雲の高度が低いため、雲に届くまでに赤外線がメタンに吸収されてしまい、赤道に比べ暗く見えています。

木星・赤外線画像 木星・可視光画像
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