「ああマジェランの星雲だ。さあもうきっと僕は僕のために、僕のお母さんのために、カムパネルラのためにみんなのためにほんとうのほんとうの幸福をさがすぞ。」
このあたりから見ると、マゼラン星雲は、ちょうど天の川の一部をちぎりとって流れから離れたところに置いた、というふうに見えます。それを賢治はもう一つの新しい「光源」だと考えました。それはまるで、「青白いのろし」のように「高く空にかかって光りつづけました」と書いています。
- マゼラン星雲とは「大マゼラン星雲」と「小マゼラン星雲」を指します。両方とも、「不規則銀河」という分類に入ります。距離は大マゼランが 16 万光年、小マゼランが 20 万光年です。私たちの住む天の川銀河に一番近く、すぐ隣りの銀河です。
- この銀河は南半球でしか見えない銀河ですが、若い星々が活発に生まれていること、ガスの組成が渦巻き銀河と違って初期の宇宙のそれに近いこと、距離が近く細かいところまで分解できるなど、研究対象としては「宝の銀河」なのです。
- 1987 年 2 月に大マゼラン星雲の中で II 型の超新星爆発がありました。日本の裏側で起こったことなので、電磁波による観測はできませんでしたが、岐阜県神岡にある「陽子崩壊」検証のための実験設備がこの現象をとらえていました。

- 超新星として星が爆発するとき、そのエネルギーの 99% を「ニュートリノ」という粒子が持ち去ってしまうという理論が構築されつつありました。神岡の実験設備は水分子の中の陽子崩壊に伴う微弱な光を検出するためのものでしたが、ある確率でニュートリノが水分子と衝突し発する光(チェレンコフ光)も検知可能でした。
- 受かったニュートリノは 10 秒程度の間に 11 個。遥か 16 万光年を旅して来たニュートリノが超新星爆発の際のエネルギーを教えてくれました。理論とほとんど同じ 1052 エルグ(1047 ジュール)、太陽が 50 億年間放出し続けたエネルギーの 1000 倍でした。
理論屋さんや神岡の実験グループ鼻高々の出来事でした。
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