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天文学会・2009年秋季年会での発表内容

9月14日から16日まで山口大学開かれた日本天文学会・2009年秋季年会において、発表を行いました。その概要は後述の通りです。

この他、記者発表(史上最も明るいIa型超新星爆発 -これまでの限界を超えた超新星の発見-)もありました。

望遠鏡で本物の星や宇宙を見るだけでなく、研究者との交流や最前線の研究現場に接することができるのもぐんま天文台の特長です。質問などがありましたら、展示室やドームにいるスタッフに声をおかけください。

講演の概要

ぐんま天文台における炭素星の高分散分光観測
橋本修, 本田敏志, 田口光, 高橋英則, 衣笠健三(ぐんま天文台)

ぐんま天文台の150cm望遠鏡とそこに設置された可視高分散分光器GAOES (Gunma Astronomical Observatory Echelle Spectrograph)を用いて、炭素星に対する可視域での高分散分光観測を行っている。炭素を含む分子による多数の吸収線を観測し、そこから炭素の同位体比 12C/13C を測定する。これによって漸近巨星枝 (Asymptotic Giant Brach:AGB) における炭素星の形成とその進化のシナリオを検証することが目的である。

過去にも炭素同位体比を観測する研究は行われているが、可視域の観測による結果と赤外線による測定との間で大きな食い違いがあることが知られている。一方で、これまでの可視域の観測には、多数の吸収線を分離するための波長分解能が不十分であったり、十分な吸収線の数を得るための観測波長域が不足していたりする場合が多く、あるいは、詳細な観測と解析が行われた例があっても、サンプルの数が限られているなど、確定的な結果を得るにはまだ課題が残されたままになっていた。

そこで、高い波長分解能を維持しながら同時に広い波長領域のスペクトルを取得することができるGAOESを利用し、改めて観測を行っている。少数の研究課題に集中した観測スケジュールの設定が可能な公共天文台の運用上の特長も活用し、数多くの炭素星に対して十分な数の吸収線を用いた高精度な同位体組成比の測定を試みるものである。

Be/X線連星A0535+26の長周期V/R比変動の検出
森谷友由希, 野上大作(京都大学), 岡崎敦男(北海学園大学), 今田明, 神戸栄治(岡山天体物理観測所), 本田敏志, 橋本修(ぐんま天文台), 定金晃三(大阪教育大学), 平田龍幸(元京都大学)

本講演ではBe/X線連星A0535+26の可視光高分散分光モニター観測から検出された周期〜500日の長期間変動について報告する。

Be星(B型輝線星)は高速で自転する(<〜数100 km/s)B型星で、赤道面上に幾何学的に薄いKepler星周円盤(Be円盤)を持つ。この為、Be星のスペクトルには光球由来の吸収線に加え、Balmer 線等にBe円盤由来の輝線が見られる。 Be円盤の形成・成長過程には未解明部分が多いが、自転速度の高さに関連すると考えられている。輝線はBe円盤の変動を反映し、数日〜数10年の様々な時間尺度で線輪郭変動(輝線の消失・再生を含む)を見せる。特に、V/R比変動(V/R比:double-peaked輝線の青(Violet)側と赤(Red)側の強度比で輝線の非対称性を示す)はBe円盤中のm=1密度波がゆっくり歳差運動することに由来すると考えられている。

A0535+26/V725 Tau(以下A0535)は代表的なBe/X線連星(O9.7IIIeと中性子星の連星系:軌道周期111.3日、軌道離心率0.47)である。一般に、Be/X線連星では中性子星とBe円盤の相互作用のために、可視〜X線(γ線)に渡り様々な変動を示す。我々は2005年秋から、岡山天体物理観測所/HIDES及びぐんま天文台/GAOESを用いて、A0535の近星点通過後におけるBe円盤の短期間変動 (<1週間)の検証を行ってきた(2007年春季年会N15b、2008年春季年会N14b)。今回、3年半にわたり蓄積したデータを解析し、Hα線とHβ線profile (peak separation 〜4Å , 〜3.5Å )に周期 〜500日のV/R比変動を見出した。また、Doppler Tomographyにより、Be円盤にこの周期で歳差運動するm=1非軸対称構造があることを発見した。干渉計以外の手法でBe円盤の非軸対称構造を明らかにしたのは初めてである。講演では、この長周期変動及び非軸対称構造について考察する。

Wolf-Rayet星の可視光および近赤外分光観測による輝線比とサブクラス分類
高橋英則(ぐんま天文台), 川端拡信(武蔵高等学校中学校), 田中培生, 小坂文(東京大学)

大質量星は,そのエネルギーの大きさから銀河のエネルギー収支や星間物質に非常に大きな影響力を持つ。また,そこからの質量放出は銀河の化学進化やダストの形成などにも重要な影響を与える。大質量星の進化は理論・観測両面から研究されてきたが,その理解はまだ十分であるとは言えない。そこで中小口径望遠鏡に最適化された可視光〜近赤外線の分光器を用いて,系統的に大質量星(WR星)のスペクトルを取得,その分類を行い,今後の詳細研究のデータベースを構築する計画を進めている(本年会、川端他)。

WR星の分類およびサブクラスは輝線強度比を基に決められる。減光により可視光では見えない候補天体探索のための赤外輝線サーベイに先駆けて, WR星のタイプ・サブクラス分類における赤外輝線比の有効性を検証しておく必要がある。まず,これまでに近赤外線分光観測が行われている天体(Nishimaki et al. 2008)について,ぐんま天文台・低中分散分光撮像装置(GLOWS)を用いた可視光での広帯域分光観測を行い,輝線強度比の再測定を行った。輝線(比)として用いたのは,CIV(5805Å)/HeII(4686Å),CIV(5805Å)/CIII(5696Å),HeII(4686Å)/Hβ(4861Å)である。ここで決定された分類結果について,近赤外輝線CIV(2.076μm),CIII(2.110μm),Brγ+HeII(2.166μm),HeII(2.189μm)の4つの輝線(バンド)について,可視と同種の電離イオン輝線3組の比(CIV/HeII,CIV/CIII,HeII/Brγ)を取ったところ,可視光と赤外線との間に有意な相関が見られた。これは近赤外輝線による分類が可視光の観測結果と矛盾なく,WR星分類およびサブクラスを再現することを意味する。

さらにこれらは,Crowther et al. (2006)によるWesterlund1領域の赤外観測結果およびそこでのサブクラス分類と矛盾なく,独自の観測・検証結果がWR星分類のよい指標となることが期待される。

Wolf-Rayet星の大質量星形成領域での探索
川端拡信(武蔵高等学校中学校), 高橋英則(ぐんま天文台), 田中培生(東京大学)

大質量星の形成・進化は銀河の進化に大きな影響を与えるが,未だ不明な点が多い。我々は特に,大質量星進化終末期の天体であるWolf-Rayet(WR)星の近赤外スペクトル観測を進めてきた。天の川銀河には,〜3000個のWR星の存在が予想されているが,現在までにわずか〜300個しか確認されていない。最大の理由は,今までの観測が主に可視光でなされ,減光の大きな領域での発見が困難であったことによる。

そこで我々は,減光に強い近赤外線での観測により,天の川銀河内で未だ発見されていないWR星を探索する観測手法を検討した。WR星の広いサブクラスにわたる近赤外分光観測データ(Nishimaki+ 2008)の輝線強度を調べ,大質量星の中でも特に質量の大きい星が進化したWC型WR星において,2μm帯のCIV輝線が顕著であることに注目した。この輝線を用いた探索は,他の方法に比べて大変効率が高いと予想される。同様の手法を用いた観測例を挙げると,Homeier+ (2003)による銀河中心の観測では大きな収穫は得られなかったが,Shara+(2009)は南天の銀河面を広範に探索し,40個のWR星を発見している。

今回,新たに製作したCIV狭帯域フィルターを,Ksフィルターまたは近接した波長の狭帯域フィルターと併用して観測を行う。これらのフィルターによる強度比を,我々の観測したWR星のスペクトルを用いてシミュレートした。その結果,WC型WR星においては,CIV輝線の存在しない天体と比べて2倍以上の強度比が得られる。本講演では,これらの結果を紹介するとともに,これを用いた,大質量星形成クラスターの観測計画,および予備観測について述べる。

遠赤外微細構造線で探るη Carinae星周電離ガス
小坂文, 田中培生(東京大学), 松尾宏(国立天文台), 濱口健二(NASA/GSFC&UMBC), 高橋英則(ぐんま天文台)

η Carinae星は非常に不安定で周囲に大量に質量放出している,銀河系内で最も重く明るい星の一つである。星の進化過程ではLBV(Luminous Blue Variable)に分類され,1840年代に起こった大きな噴出によって現在では双極方向にガスやダストが広がって見える。

今回「あかり」フーリエ分光器によるη Carinaeを中心とした約5'×10'の遠赤外線スペクトルイメージを,3つの微細構造線[CII] 158μm,[OIII] 88μm,[NII] 122μmで得た。 [CII]に関してはキャリブレーションの向上により,新たに精度の良いイメージを得ることができている。そして[CII]のピークはη Carinae星の双極アウトフロー方向に分布し,CO (J=3-2)の分子雲(Yamaguchi et al)との相互作用が示唆されるものとなった。一方で[OIII]は片側の分子雲方向でのみピークを示し,η Carinae星以外の他の電離源の可能性が示唆される。また,[NII]については[CII]や[OIII]と異なる分布が見られた。

本講演では,3つのスペクトルイメージより得られる星間ガスの物理状態について考察し,Carina領域の赤外線やX線のデータと比較し議論する。

銀河系におけるアクチノイド元素トリウムの合成と蓄積
青木和光(国立天文台), 本田敏志(ぐんま天文台)

アクチノイド元素トリウム(原子番号90番)は、すべてr-過程(爆発的におこる中性子捕獲過程)で合成される元素である。多数の不安定核を経由して合成されるこの元素は、r-過程の環境によって合成量が大きく変わるとの理論予測があり、r-過程の理解のうえで重要な元素である。これまでに金属量の低い([Fe/H]<-2)赤色巨星のなかで、特別にr-過程の影響を強く受けた星において検出が報告されている。一方で、金属量の比較的高い星についてはこの元素の測定例は少ない。これは、トリウム組成の測定によく使われている 4019Åの吸収線が、他の元素の吸収に埋もれてしまうためである。そこで我々は、金属の吸収線が込んでいない赤領域のトリウムのスペクトル線 (5989Å)を用いて組成の測定を行うための観測を積んできた。その結果、この線は有効温度で4500度以下の星では比較的容易に検出できることがわかり、すばる望遠鏡のサービス観測の時間などを用いて13天体についてトリウム組成の測定を実施した。こうして測定されたトリウムの組成と、トリウムよりはだいぶ原子番号の小さいr-過程元素Eu組成との比をとる(Th/Eu比)と、太陽系の組成比に比べ0.2~dex程度低い平均値をとり、値のばらつきは小さいことが明らかになった。これは、サンプルの多くが銀河系ハロー種族の星で年齢が高く、トリウム(半減期140億年)のかなりの部分がすでに崩壊してしまっていることを考慮し、また[Fe/H]>-2ではすでに星間ガスの混合が進み、組成が平均化されていると仮定すれば自然に解釈される結果である。トリウムの合成はr-過程の環境に敏感であるとの予測があるが、平均としては太陽の組成比から予測されるTh/Eu比で合成が進むことが裏付けられた。この結果は、銀河系ハローや厚い円盤構造、あるいは矮小銀河の年齢の推定にトリウム組成を利用する可能性を示すものである。

新たに発見された食のあるポーラー CSS081231:071126+440405 の可視測光・分光観測
前原裕之, 大島誠人, 田中淳平, 蔵本哲也, 加藤太一, 野上大作(京都大学), 衣笠健三, 本田敏志, 橋本修(ぐんま天文台), 伊藤弘, 中島和宏, 清田誠一郎(VSOLJ), Arto Oksanen, Bart Staels, Ian Miller, VSNET Collaboration Team

ポーラーは激変星の一種で、強い磁場(B>〜10MG)を持つ白色矮星の主星と低温度星の伴星から成る近接連星系である。白色矮星の強い磁場のため公転周期と白色矮星の自転周期が一致しており、伴星からの質量移動があった場合でも、降着円盤は形成されず、磁力線に沿って白色矮星の磁極へ直接質量降着が起きると考えられている。

CSS081231:071126+440405は暗い時期は18等ほどであるが、 15等まで増光していたところを2008年12月31日に Catalina Real-Time Transient Surveyによって発見された天体である。我々はこの天体の連続測光観測と分光観測を行なったのでその結果を報告する。

測光観測の結果、high stateでは減光幅約4等の深い食が観測され、食の付近の位相で振幅1.5等ほどのハンプがみられた。発見から1週間ほどでこの天体はlow stateに移行し、食の深さは2等ほどまで減少した。low stateでの食中の光度変動の様子はhigh stateとは異なっていた。また、ぐんま天文台の1.5m望遠鏡を用いて低分散(R〜400)分光観測を行なったところ、水素のバルマー系列やHeII(4686)などの輝線の他、幅の広いbump がみられた。このbumpをサイクロトロン放射によるものとしてスペクトルのモデル計算を行なうと、白色矮星のもつ磁場の強さを B〜40MGとすると観測されたスペクトルをよく説明できることがわかった。

ハンプと食の位置関係の変動がみられないことや、スペクトル中にサイクロトロン放射によると思われるbumpがみられることから、この天体は食のあるポーラーであると考えられる。

最短軌道周期のSU UMa型矮新星OT J102842.9-081927の発見
大島誠人, 加藤太一, 前原裕之, 田中淳平(京都大学), Greg Bolt (VSNET Collaboration Team), 衣笠健三, 本田敏志,橋本修(ぐんま天文台), 清田誠一郎(VSOLJ)

激変星は軌道周期が数時間以下の近接連星系である。このような天体は磁気によるブレーキや重力波の放出により、伴星からの質量移動を示しながら軌道周期が減少する。その後伴星が縮退を始めると周期は増加に転ずるため、理論的な最短周期が存在する。しかし近年、連星進化の理論から推定される最短周期より短い軌道周期にもいくつかの激変星が発見されており、このような軌道周期の天体を作りうる進化のプロセスが問題となっている。

OT J102842.9-081927は今年4月にCatalina Sky Surveyによって突発的天体として検出された。発見後の測光観測により、周期0.03814(6)日のsuperhumpが捉えられたため、この天体が極端に周期の短いSU UMa型矮新星であることが判明した。

このように短い周期の矮新星は、赤色星を伴星として持つ通常の矮新星の他に伴星としてヘリウム白色矮星を持つ連星である可能性がある。そこで、我々はスペクトル観測も合わせて行った。

得られたスペクトルからは水素の輝線が明瞭にみられ、このJ1028が 伴星にヘリウム白色矮星を持つ系ではないことを示唆する。そのため、 この天体はEI Pscのようにhydrogen-richの伴星を持つ軌道周期の短 い矮新星であると考えられる。なお、superhump周期から推測される 軌道周期は、伴星がヘリウム白色矮星でない天体としては最も短い ものである。

従来、このように理論的な最短周期より短い軌道周期を持つ天体の由来としてヘリウム燃焼が進んだ状態の伴星を含む系が考えられてきた。しかし今回発見されたJ1028ではヘリウムの線が軌道周期が近いEI Pscなどに比べて弱く、異なった進化段階にある可能性もある。

極めて明るいIa型超新星SN 2009dcの可視近赤外観測( 記者発表課題 )
山中雅之, 川端弘治(広島大), 衣笠健三(ぐんま天文台), 田中雅臣(東京大), 今田明(国立天文台岡山), 前田啓一, 野本憲一(東京大), 笹田真人, 伊藤亮介, 池尻祐輝, 新井彰, 永江修, 千代延真吾, 田中祐行, 小松智之(広島大), 本田敏志, 橋本修, 高橋英則, 田口光(ぐんま天文台), 吉田道利 , 柳澤顕史, 黒田大介(国立天文台岡山), 河合誠之(東京工業大), 坂井伸行, 面高俊宏(鹿児島大), 中屋秀彦, 鎌田有紀子(国立天文台)

Ia型超新星は、極大光度と減光する割合いに良い相関関係が存在し、宇宙論的な距離の指標となる重要な天体である。その爆発前の天体は近接連星系において伴星からの降着により白色矮星がチャンドラセカール限界質量近くに到達したときに起こる説が有力であるものの、完全には決着が着いてない。SN 2009dcは、2009年4月9.31日(UT)にレンズ状銀河 UGC 10064で16.5等の新天体として発見された(CBET1762)。 4月16.22日に分光観測が行われ、極めて明るい光度を示したIa型超新星 SN 2006gzの約極大1週間前のプロファイルに似ていることが報告された (CBET1768)。これを受け、国内の中小口径望遠鏡を用いた集中的な観測を行った。可視光の測光観測には広島大学1.5m かなた望遠鏡およびHOWPolと岡山MITSuME望遠鏡、分光観測にはぐんま天文台1.5m望遠鏡、近赤外の観測には岡山1.88m望遠鏡と鹿児島1m望遠鏡を用いた。光度曲線は、Ia型超新星の中でも明るいサブクラスである SN 1991Tよりも明らかに幅が広く、極めて明るいSN 2006gzと同程度のスローな減光を示した。極大総輻射光度からは、放出されたニッケルの質量がが1.1太陽質量と推量される。スペクトルにおいては、SN2006gzで極大1週間前に炭素が消失したこととは対照的に、極大の1週間後まで明らかな炭素の吸収線が確認された。これは爆発による元素合成が外層領域では不完全であったことを意味する。それにも関わらず、大量のニッケルを合成したことは爆発前の白色矮星がチャンドラセカール限界質量を上回っていたことを示唆する。

彗星の酸素禁制線強度比に基づくCO2/H2O比の推定(3)
古荘玲子(国立天文台), 本田敏志, 衣笠健三, 高橋英則, 田口光, 橋本修(ぐんま天文台), 大坪貴文, 臼井文彦(宇宙研), 渡部潤一(国立天文台)

彗星核の揮発性成分(氷)の分子の存在比を知ることは、彗星核が形成された原始太陽系円盤における化学進化などの情報を与えてくれると期待される。ところが、特にCO2はH2Oに次ぐ主要成分と考えられているにも係わらず、地球大気中のCO2に阻まれて地上観測が不可能なため、これまで観測例を増やすことが困難であった。

そこで、我々は彗星スペクトル中の酸素禁制線([O i])に着目した。彗星スペクトルの酸素禁制線は、彗星コマ中において太陽紫外光による光解離反応で酸素を含む分子から生成された準安定状態酸素が遷移して発光する輝線である。可視波長域では、準安定状態酸素 O(1S) から O(1D)への遷移で波長557.7nmのgreen lineが、 O(1D) から基底状態 O(3P) の遷移で波長630.0nm および 636.4nmのred doublet lines が観測される。この、green line と red doublet の輝線強度比、つまりO(1S): O(1D):O(3P) の比率(分岐比)が親分子によって異なることを利用すれば、CO2/H2O が推定可能である(e.g., Furusho et al. 2006)。

我々は、県立ぐんま天文台高分散分光器(GAOES)を用いて、C/2007 N3 (Lulin) の観測を行った。この彗星は、2007年7月に発見され2009年1月中旬に近日点を通過したオールト雲彗星である。観測は 1月29日〜2月17日の期間に行われた。 2月17日の観測結果に基づき CO2/H2O を求めたところ、〜 4%という結果が得られた。これは、近日点通過前に消滅した C/1999 S4 (LINEAR) の観測結果と同程度である。さらに、3月末に得られた「あかり」衛星による観測結果(〜 4--5 % 大坪他, 天文学会2009年秋期年会)との比較を行い、我々の可視高分散分光観測に基づく CO2/H2O 推定値が大気圏外の直接観測と整合的であることも確認できた。発表では結果の詳細な報告と過去の観測例との比較議論を行う。