γ線バーストGRB030329の残光の赤外線および可視光観測に成功

GRB030329の残光
(2003年3月29日24時頃撮影(日本時間)) J band
3月29日の写真
GRB030329の残光
(2003年3月30日23時頃撮影(日本時間)) J band
3月29日の写真

2003年3月29日、ぐんま天文台150cm望遠鏡、65cm望遠鏡、観察用望遠鏡の観測によってい「γ(ガンマ)線バーストGRB030329」の赤外線・可視光での残光観測に成功しました。

γ線バースト(GRB)とは、宇宙のある方向において数秒間にわたって突然γ線(可視光に比べて約100万倍ものエネルギーをもつ光<電磁波>)で明るくなる現象です。1960年代末の発見以来、長い間「謎の現象」とされてきましたが、近年になってX線や可視光でその残光が発見され、遠方の銀河で起こっている大爆発であることが分かってきました。しかしながら、どのような天体がそのような大爆発をおこすのかは未だに分かっていません。また、その残光もγ線バースト発生後、数時間〜1日ですぐに暗くなってしまうため、迅速な観測が必要となります。

今回のγ線バースト天体は、理化学研究所がアメリカやフランスと協力して打ち上げたγ線バーストの発見を目的とした「HETE2」という衛星によって2003年3月29日20:37(日本標準時)に発見されました。HETE2衛星によって発見されたγ線バーストの位置は、21:50(発見後約1時間10分)でインターネットを通じて全世界へ配信されました。ぐんま天文台ではその通報を受け取ってすぐに150cm望遠鏡の赤外線カメラの観測準備を行い、22時50分頃(γ線バースト発生後約2時間10分後)、その残光を捕らえることに成功しました。γ線バーストの残光の赤外観測が行われたのは国内では初めてのこととなります。また、このバーストについても世界で最も早い赤外線のデータを取得できたと思われますので、このγ線バースト研究において、とても貴重なデータになります。また、65cm望遠鏡では可視光利用域での分光観測、さらには口径25cmの観察用望遠鏡での撮像観測も同時に行い、それぞれバースト直後の貴重なデータを得ることに成功しました。

バースト位置が速報されてすぐに観測されたデータでは、その明るさはほぼ12等級であるとの報告があり、これまででも最も明るいバーストと言えそうです。その後のヨーロッパ南天文台(ESO)の8mの望遠鏡(VLT)で詳細な観測を行ったところ、距離が約18億光年 (ハッブル定数75km/s/Mpcと仮定) であることがわかりました。このγ線バーストは確認されているもののうち、最も近いところでおこったもののひとつといえます。

ガンマ線バーストの歴史的位置づけ

γ線バースト(GRB)は、1960年代後半から1970年代初頭にかけてアメリカの核実験監視衛星Velaによって発見されたものですが、短時間の現象であること、また、γ線観測装置がγ線の飛んできた方向を正確に求めることができなかったことなどの理由によって、およそ30年の間、謎の現象とされてきました。太陽系近傍といった比較的近いところで起こっているのか、それとも、宇宙の果てで起こっているのかさえ分からなかったのです。この状況を一変させたのが、1997年イタリアのX線衛星BeppoSAXがγ線バーストのX線残光を発見したことです。この通報に続き、可視光残光も発見されました。そうすると、大望遠鏡などで可視光残光のありかを調べることができ、遠方の銀河で起こっていることが分かってきました。つまり、宇宙で最も大きな大爆発であることがわかってきました。しかし、未だに観測例が少ないこともあり、何がその大爆発を起こしているのかがわかっていません。

ガンマ線

一般的に「光」と言われるものは科学的には「電磁波」と言われるものの一部の領域を指すものです。光とは、一般的には400〜700nm(ナノメートル;百万分の1メートル)を指し、専門的には「可視光線」と言われています。この可視光線より波長の短いものとして、「紫外線」や「エックス線」があります。「ガンマ線」とは、それらよりさらに波長が短く、高エネルギーの電磁波です。逆に、可視光線より波長が長くエネルギーが低いものとして、「赤外線」や「電波」があります。これら波長の違いにより名称が違っていますが、すべて「電磁波」の仲間で、その正体は「光子(フォトン)」です。

県立ぐんま天文台観測普及研究グループ
主任(観測普及研究員) 西原 英治
専門員(観測普及研究員) 橋本 修
主任(観測普及研究員) 衣笠 健三
観測普及研究員 田口 光
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